サーフィン

サーフィンで死にかけた話

カーテンの隙間から日差しが差し込んでいる。

太陽に起こされるなんて贅沢な話だ。

そう、今日は土曜日 。

毎年の恒例ではあるが、今年は暑いという話題で持ちきりになる季節である。

去年と比べて毎年暑くなるのであれば、さぞかし先人達は随分寒い夏を経験したのであろう。

人間の感覚とは実に愚かなものだ と思いながらも、友人とのサーフィンの約束を思い出し重い腰を持ち上げる。

今の時代は携帯電話が普及しているから、なんて便利な世の中であることか。

さぞかし先人達は遅刻癖の友人と殴り合ったに違いない。

友人から、ラインのメッセージに一時間遅れるとの連絡が入る。

時間を守ることは社会人の鉄則だ と思いながらも、朝食をゆっくり食べれる口実に期待を膨らませた。

朝食は毎日同じものを食べている。

某一流野球選手のカレーを真似ている気はさらさら無いが、YouTubeでその動画に高評価を押したのは事実だ。

目玉焼き2個、ウインナー4本、トースト1枚。どんな五つ星ホテルでも真似が出来ない極上の朝食だろう。

目玉焼きの黄身に箸を触れると、黄色い粘度の高い液体が流れ出す。

山の頂上から流れるマグマのように、ゆっくりと時間をかけこぼれ落ちる。

口に運ぶ前に、皿に黄色い液体が付着している事を黙認しながら、空腹の胃袋に流し込む。

台所のシンクに食器を置き、サーフボードを片手に車に乗り込んだ。

レジャー目的の車を避けつつ、高速道路を流し海岸へ向かった。

ハンドルにかけた手が、敷居の高いレストランで出される生焼きのステーキになりそうだ。

日差しが皮膚の毛穴を通り抜け、毛細血管の外周を包み込む。

これが日焼けだと現を抜かしながらも、海岸付近の駐車場に車を止めた。

所謂腐れ縁である友人の変わらぬ顔を確認しながら、なんと発生したのか認識できない挨拶を交わす。

意思疎通がここまで出来るとは現代文明も驚きだろう と思いを馳せながらも、サーフボードにワックスを塗る。

肩〜頭セット頭半、オフショアというサーファーを口説くなら確実な魔法の言葉がある。

本日はその日だ、いわゆる、the day。

いつから日本人は英語を使うようになったのだろうか。

グローバル社会の波に揉まれながら、自然の荒波には気をつけようと心に誓い海に入る。

何時間海に入っていたのだろう、すっかり空がオレンジ色に塗られている。

3本目に乗った波で描いたマニューバーをおかずに、美味しいビールが飲める。

きっと画家であれば後世に渡り語り継がれたことであろう。

岸で友人が片手を上げていた。

乳酸が溜まった肩を動かしながら、このセットに乗って帰ることにした。

オフショアからオンショアへ変わった気まぐれな波を見つめつつ、テイクオフをする。

波のトップから一気にボトムへ降り立ち、あそこに当てようとアクションを入れる。

いつから地球には重力があるのだろう、目の前には波の地面がある。

アクションを入れた際に体勢を崩したのである。

口を揃えて、洗濯機の中みたい とサーファーは語る。

波に飲まれる感覚は、洗濯物に等価交換された人間が洗濯機の中で洗濯をされているそれと似ているらしい。

最初に例えた人間は、よっぽど実力のあるコメディアンだな と何人かの有名人を思い浮かべながらも頭に衝撃が走ったことは感じることができた。

サーフボードが頭に当たったのだろう、リペアにならなければ良いが とオーストラリア製のサーフボードの心配をする。

海面から顔を出し、サーフボードの確認をする。

良かった、サーフボードのリペアは必要なさそうだ。

ふと、頭に生ぬるい感覚があることがわかる。

頭に添えた手を見ると、赤く色が塗られている。

皮膚が裂け、血管が切れ、中から血液が流れ出している。

じわじわと痛みの感覚を覚える。

必死に岸へたどり着いた私を見て、友人の真っ青な表情が伺えた。

人間はよっぽど赤い液体を溜め込んでいるのであろう、青色だったはずのラッシュガードが赤く染まっている。

友人が手配をした救急車に乗り込んだ。

やはりこの地ではサーフィンによる怪我で運ばれる人間が多いらしい、地元生まれの屈強な救急隊との会話も

うる覚えのまま、診察台に寝かされた。

どうやら搬送された病院の医師は青色が好きらしい、通常毛が生えている箇所を縫う場合は黒色の糸を使用するらしいが、

在庫切れらしい。ワンポイントで頭に青色の差し色ができた。

結果としては後頭部を2針縫うという、死にかけるには程遠い傷で済んだようだ。

直ぐに友人の指示の下、止血を行ったことが良かったらしい。

友人には感謝しつつ、自然とは恐ろしく、刺激的であると空想にふける。

暫くは安静にしよう、と心に近いカーナビに繁華街の住所を入れた。

 

Fin,

 

 

そうだ、私の血管を切ったのも”フィン”であった。

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タケル
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